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幅 : 6.13cm 高さ : 4.66cm
柔らかな象牙色の釉肌に、さりげない幾何文様で“巳(み)”を象徴した本作は、干支ぐい呑シリーズの中でもひときわ洗練された佇まいを見せております。以下、五つの観点からその魅力を詳しくご紹介いたします。
口径は親指と人差し指で心地よくホールドできるほどのサイズで、高さに対してわずかに広がる腰高形(こしだかがた)のフォルムです。口縁をほんのり内へ絞ることで酒の香りを逃がさず、底部はゆるやかなラッパ状の高台へとつながり、盃を置いたときの安定感を高めています。掌にのせた際の重心バランスが良く、片手でも自然に回しやすい設計でございます。
全体を覆う釉薬は鉄分を極微量に含む半透明の長石釉で、焼成中にわずかに生成した貫入(かんにゅう)が光の角度で淡いシルバーグレーを帯びます。時間の経過とともに日本酒や焼酎の成分が貫入へ染み込み、やさしい琥珀色の景色へ変化する“育つ器”としての愉しみを秘めています。
胴上部を巡る帯状の浮彫文(うきぼりもん)は、正方形と曲線を組み合わせた抽象文でございます。よく見ると、水平線に沿って緩やかに連結した曲辺が“とぐろを巻く蛇”を暗示し、巳年の象徴をミニマルに表現しています。蛇は古来より「再生」「豊穣」「財運」のシンボルとされ、新年の祝盃や節目の晩酌にふさわしい吉祥を担います。
素焼き前の半乾状態で胴を薄く掘り下げ、同時に文様の縁を高く残す「浮彫(レリーフ)」技法を採用しています。その上から透明釉を掛けることで、稜線がやわらかく溶け込み、触れた指にごく浅い段差だけを伝えます。文様は釉下に沈むため、摩耗に強く、長期使用でも意匠が損なわれにくいのが特長です。
干支にちなんだ酒器は、室町時代の宴席記録にも見られるほど歴史が古く、年始の祝い酒や季節の節会(せちえ)で用いられてまいりました。十二支を揃えて月替わりで使う、あるいはその年の干支だけを愛用するなど、コレクション性と物語性を兼ね備えています。高橋道八様は、京焼色絵の名門としての伝統を踏まえつつ、現代のテーブルウェアにも映えるモダンな造形とニュートラルな色調で干支シリーズを展開し、本作は“巳年”のテーマを静謐に昇華した一客でございます。
高橋道八家は江戸後期以来、京焼色絵の名門として知られます。九代様は京都文教短期大学 服飾意匠学科デザイン専攻を経て、京都府立陶工高等技術専門校 成形科・研究科、さらに京都工業試験場本科で技術基盤を固められました。
平成8年(1996年) 八代道八様(父)に師事し、本格的に作陶を開始
平成24年(2012年) 九代 高橋道八を襲名
服飾デザインで培われた造形感覚と、京焼の伝統技法が交差する作風は、道八家に新たな風を吹き込み、現代茶席やギャラリー空間にも映える洗練を示しています。
象牙色の釉肌に穏やかな幾何文が浮かぶ本ぐい呑は、視覚的な軽やかさと指先に残る柔らかな質感を併せ持つ逸品です。冷酒を注げば薄青みを帯びた液面が釉のクリーム色に映え、燗酒をそそげば湯気をまとった釉肌がしっとりと艶を増します。日々の晩酌はもちろん、巳年のお正月や巳の日の祝いなど、節目の一献をより豊かに演出してくれることでしょう。どうぞ末永くご愛飲いただき、貫入が季節とともに深める景色と、高橋道八様の洗練された意匠をご堪能くださいませ。
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